【ザ・メッティー・チャイルド：一女登場編（1982）】

　ヨガはなんの未練も迷いもなく放浪の旅に行ってしまいました。
　さて、残されたメンバーはどうしようかと途方にくれることもなく、いつものように練習にはげみました。
　ヨガなしでの何回目かの練習のとき、ヒロジが一人の女性を連れてきました。その女性について別にこれといった紹介もなく、彼女はキーボードの前に座り、練習に参加したのでした。
　『なんや、こいつ？』『ワシになんのことわりもないやんけー』『態度でかいんとちがうか？』など、彼女に対する松井と私の第一印象は一致していました。
　そうです、これが、以後メッティーのマスコットであり、音楽的には要となる“一女”の登場です。
　このような形で、なんかしらんまに割り込んできたという印象しかないまま、おそらく、最悪な雰囲気で練習がくり返されていきました。松井と私は練習が終わるたびに、「態度でかいんとちがうか」「入ってすぐに歌うたいたいとはなんじゃ…」など陰口をたたいていました。“一女”を連れてきたヒロジもつらかったことでしょう。
　さて、これからどうなるんや？のメッティーですが、ほどなく、ジョージ英会話のダンスパーティーで演奏することになります。
　練習の雰囲気は最悪でも、曲の方はどんどん仕上がっていっていましたので、久しぶりのＬＩＶＥに心ウキウキというところでした。（この間少しの間ＬＩＶＥはストップしていたのです）
　このダンスパーティーで事件は起こったのです。
　パーティーで演奏するということは、必然的に、飲み放題・食べ放題ということになります（実はこの頃、飲み放題・食べ放題にはめっぽう弱かったメッティーでした）。ウキウキ気分も手伝って、もう、パーティーに参加してる人よりも盛り上がって、飲むわ飲むわ…、食うわ食うわ…！そして、その中でも一段とジョッキーを空けていたのがそうです、噂の女“一女”だったのです。
　なにしろ、新メンバー“一女”が入ってから初のＬＩＶＥ。少々緊張気味でしたが、そこはそれ勢いのあるメッティですから、どんどんオリジナルで攻めまくりました。ただのＬＩＶＥではなく、ダンスをする人も増えてきて、ええ雰囲気になってきたころ、ふと横を見るとキーボードの“一女”がスッと立ち上がってどこかへ行きます。『なんや？』と思っても演奏中ですから聞くこともできず…。帰ってきた“一女”はなにもなかったように、笑顔で座りまた演奏を続けます。それから後も“一女”はこの奇妙な行動を都合４回繰り返しました。２度目からドラムをたたきながら見ていると、彼女の行き先はいつも同じです。そうです、もうおわかりでしょう！そうです、トイレです。
　演奏前にたらふく飲んだビールのせいで、彼女は奇妙な行動をとらざるを得なかったのです。
　ふつうなら、これでメッティー崩壊は決定的なものだったでしょう。しかし、この大胆不敵な“一女”の行動は、私の目にはまさしくロックそのものに写り、このダンスパーティーを境に、“一女”は本当の意味でザ・メッティー・チャイルドの一員となったわけです。
　まさに、ザ・メッティー・チャイルド：“一女”登場です！
　“一女”恐るべし！